ビギナーのための新聞レイアウト
1、新聞レイアウトの主なセオリー
「禁じ手」を使うな
A 2行見出しは「8本10本」とし、正体を使え
B見出しは3行見出しまでとし、 千鳥(チドリ)の形にせよ

C見出しの書体は、明朝体またはゴシック体を使え
D基本文字は、明朝体を使い、平体にせよ
E紙面は、「白い」をなくし、「黒い」を散りばめよ
Fトップ記事の見出しには 地紋を使用せよ
Gあらゆる場面で、反復はタブーだ
「レイアウトの基本」となると、どうしても、「新聞レイアウトの基礎」をざっとたどることになろうかと思います。そこで、まず、みなさんも1度は耳にしたことがあるかもしれない、代表的な「新聞レイアウトのセオリー」からはじめましょう。

ここでは、そんなものがあるんだなあ、というほどの理解でいいのです。

@は、「腹きり」「泣き別れ」など、「やってはいけない」といわれている「レイアウト・タブー」のことです。「両落ち・両流れ」「飛び越し」「飛び降り」「割り込み」「煙突」「またぎと流しの混在」「しりもち」などは、「やってはいけない」といわれています。

「やってはいけない」ことは、E、Gもそうで、Eの「白い」というのは、記事が20行以上も、数段にわたって、流されたり、たたまれたりすると、読み疲れして、読み辛いとされ、「やっていけない」ということになっています。見出しとか写真など「黒い」ものを配置して、白い面積を小さくせよ、というセオリーです。Gの反復タブーは、禁じ手の「煙突」(見出しが縦に並んだり、横に並んだりすること)もその一つですが、同じ写真はページが異なっていても使わない、とか、見出しに同義反復・同語反復はやめる、などがあります。記事の書き方でも、同義反復・同語反復は排除したほうがよい、といわれています。

「やったほうがよい」「やれ」というセオリーが、ABCDFです。

特にBは、後でもじっくりと触れますが、「新聞レイアウト」「新聞デザイン」の要(かなめ)ともいうべきセオリーです。これが無くなったら、新聞デザインは、そのアイデンティティーを失うのではないか、という議論が行われているほどに、重要なセオリーです。★

ざっと見ると、「新聞レイアウトのセオリー」は、こんなところを軸にしています。
2、セオリーはどこからきたか
@ 日刊一般新聞ニュース面
A ブランケット版
B 活版時代
Cモノクロ
D縦組み漢字仮名まじり文……
Eジャーナリズム
★ざわざわ・ごちゃごちゃ感・元気
これらのセオリーは、どこで生まれたのでしょうか。いうまでもなく「新聞」の制作現場で生まれたのです。その新聞とは、

第1に、日刊発行の一般新聞のニュース面でした。

第2には、ブランケット版の制作現場でした。

第3には、活字印刷の時代のセオリーでした。

第4には、モノクロ紙面が主流の時代のセオリーでした。

第5には、新聞は縦組みで漢字仮名混じり文の日本語を使用することから生まれたセオリーでした。

第6には、ジャーナリズムであることを条件として生まれてきたセオリーであったことも加えておきたいと思います。

これらに加え、より多くの読者に読まれなければならないための工夫として、元気のよい、ざわざわとした、世間を反映した、「ごちゃごちゃ感のある」紙面作りをせよ、というセオリーもあります。
新聞は、商業新聞でもあり、売れなければなりませんから、マーケティングの要請もあったし、現在もあるのです。
3、広報というメディアと「今」――2003年
@ タブロイド版と自治体広報
○ 冊子型(雑誌デザイン)
○ 1億総デザイナー(DTP)、1億総編集者(HP)の時代
ここでお話しようとしているには、市町村自治体の広報とか議会広報とか、PTA新聞とか、社内報とか、地域新聞とか……のレイアウトについてです。それを、一般新聞のレイアウト・セオリーに引きつけて考えようとしています。一般新聞のレイアウトを学んでおけば、「応用」としてさまざま媒体への展開も可能ですし、「デザイン」へのステップにもなります。HPの作成や、DTPでのレイアウト・デザインの基礎テクニックへもつながっていきます。

とりあえず「広報紙のレイアウト」をイメージした時に、広報固有のレイアウトというものがあるだろうか、と考えてみました、広報のあり得べき「理想のレイアウト」はあるだろうか、と。それは、きっとあるに違いありません。しかし、これだ!という実際の紙面にぶつかったためしは多くはありません。さまざまな試みが行われていますが、未だしという感じです。

2003年現在の広報、特に市町村自治体広報は、大別して、新聞をモデルにした「タブロイド版広報」と、雑誌をモデルにした「冊子型広報」の2通りがあります。冊子広報型は、A4判、B4判、B5判で、いずれもタブロイド版より小さく、当然ながら、商業印刷方式のものがほとんどです。

人口規模の大きい都市部は、情報量も多いため、タブロイド版の新聞型が多いようです。東京都心部や三多摩地域、そして関東エリアでも、圧倒的にタブロイド版の発行が多く、これは伝統的とさえいえる状況です。

こんな背景を踏まえれば、「タブロイド版のレイアウト」という角度で広報のことを検討できるのではないか、と考えました。タブロイド版の新聞は、行政広報・議会広報をはじめ、地方新聞、地域新聞、業界新聞、PTA広報、政党機関紙、労働組合機関紙、学校新聞……などが、盛んに発行されています。

そのレイアウト・セオリーは、朝毎読(ちょうまいよみ)、日経、産経の全国紙や、ほとんどの地方新聞のセオリーを踏襲(とうしゅう)しています。すなはち、これらブランケット版のレイアウト・セオリーから学んでいます。ブランケット版一般新聞のレイアウト・セオリーには、「レイアウトのイロハから高度テクニックまで」あらゆるレイアウトセオリーが詰まっており、レイアウトを実践するには、最良のモデルとなっているのです。

新聞と対極をなす、一方の「雄」が、雑誌です。雑誌は、新聞レイアウトとは別の、独自のセオリーを積み上げてきました。しかし、両者(新聞と雑誌)は、相互に影響し合う面も多く、レイアウトにも共通する部分があります。

タブロイド版「新聞レイアウト」は、実は、新聞レイアウトの影響も、雑誌レイアウトの影響も受けています。それは、一種、混乱でもありますが、可能性でもあります。

DTP(DESK TOP PUBLISHING)やHP(HOME PAGE)の進化、一般大衆への浸透が、この流れに拍車をかけています。DTPの浸透が、「1億総デザイナー時代」を告げ、HPの隆盛が「1億総編集者の時代」を告げています。紙メディア(ぺーパー・メディア)のみならず、デジタル・メディア(電子メディア)を含めて、メディアのレイアウト、デザインは複雑に影響し合っているのですが、混乱しているとも言えます。

タブロイド版レイアウトも、ブランケット版新聞をはじめ、雑誌、DTP、HPなどの、さまざまなメディアの影響を受け、そのセオリーを摂取しているがゆえに、混乱しているとも言えます。この混乱の中から、しかし、タブロイド版レイアウトは、「タブロイド版独自の世界」を築き上げはじめた、という傾向にあります。

ペーパーメディアとしての広報紙・誌を、「タブロイド版のレイアウト」という角度から学習する意義は、このような点にあります。
4、新聞レイアウトの要素と部品
○ 3大部品(本文・見出し・写真)……文字と画像
@ 本文のレイアウト(流し、たたみ、流したたみ&横組み)
A 見出し。文字(Verbal)と画像(Visual)の両面性、形(字形・フォント……)とレイアウト(縦横、斜め……)
B 写真のレイアウト。
C その他部品のレイアウト
★全体のレイアウト&デザイン。3大部品のバランスを考えつつ、その他の部品を「創造的に」配置する
一般新聞の1ページを広げてみましょう。さまざまな要素と部品で、ぎっしり埋まっているのが理解できます。

ざっと、列挙すると、
@見出し、A前文、B本文、C写真説明、D表――の文字群と、Eグラフ、Fイラスト・カット、Gバックパタン、H罫線、I写真――の画像群に分けられます。このほかに、見逃してはならないのが、J空白と、K色――です。これらを、バランスよく配置する作業が、レイアウトです。

これらのうちの、見出し、本文、写真の3つを、ここでは「3大部品」と呼んでおきます。3大部品を配置できれば、そのページの大方をレイアウトしたことになる、と考えてください。3大部品は、「血と肉と骨」と言えるほどの「要素」です。文字要素(Verbal Elements)としての本文記事、画像要素(Graphycal Elemennts)としての写真、両要素にまたがるのが見出しです。

その他の部品は、ディテールやテーストを表現するための2次的要素と言えます。

これらの部品を一つ一つ、レイアウト・テクニックの基本という角度から学んでみましょう。まず3大部品の、本文、見出し、写真。次に、その他の部品という順序で学びます。あくまで、「基本の基」です。これらの部品の一つ一つについて、レイアウト上、知っておいたほうがよいという「最低限」です。
5、本文の書き方とレイアウト
本文の書き方・書かれ方
新聞の本文記事には、書き方のルールがあります。より多くの読者に、わかりやすく、間違いなく伝えるための約束ごとが、長い歴史の積み重ねの中で築きあげられてきました。それをマニュアルとしてまとめたものが、「記者ハンドブック」です。

5W1H3Cを欠かすな、とか、常用漢字、用字用語とか、使ってはいけない差別語だとか、外国の地名・人名とか……が記されている新聞制作必携の辞書です。書き方のルールであって、レイアウトのルールではありませんが、レイアウトするときには最低限知っておかなければならないことが書かれているのです。

本文記事というコンテンツの作成と、読ませるためのレイアウト作成は、本来、ひとつのものであれば、よりスムースに運ぶものでしょうが、実際は分業する場合がほとんどです。このために、書かれた記事の意図を、レイアウトする段階で汲み取りそこねることも起こります。分業のシステムが、両者の意思疎通を妨げ、ちぐはぐになってしまっては、よい紙面はつくれません。レイアウトという作業は、コンテンツ(記事)のより深い理解を求められ、単なる素材でしかない大元の原稿をよりいっそう引き立たせる「記事」として完成させる仕事です。取材し、原稿を作成する作業を、編集・整理し、レイアウトする作業が上手に引き継がねばなりません。ですから、レイアウトするためには、記事の約束ごとを取材記者以上に知っておく必要があるのです。「書く技術」に精通していないで、「書かれた記事」をレイアウトすることがうまくいくわけがありません。

ニュース面の本文記事(報道記事)の書き方の「基本の基」として、
@主語と述語、5W1H3Cという必要不可欠な要素を盛り込みながら正確で、簡潔・平明で、「インパクト」のある文章になるように書きます。
Aまず重要なことが先に書き、文末に行けば行くほど重要度の低い内容になるように書きます。これを、「逆ピラミッド型の文章」と呼びます。
B「 テニオハ」(=助詞)を正確に使い分けて書きます。
C句読点を丁寧に打った文に、7行(12字詰め)前後で改行して書きます。
D接続詞は極力、避けて書きます。
E 口語文にし、無闇に文語は使わないで書きます。
F 「中学生が読める」「80歳が読める」記事を意識して書きます。
G英文法でいう「単文」が望ましく、「重文」ならまだしも「複文」は避けて書きます。
H「用語用字」は、記者ハンドブックに準じて書きます
……などを、ここでは記しておきます。

本文のレイアウト
本文記事の「形」を見ていきましょう。レイアウトの「血」に相当する重要な要素である本文の「形」です。
*縦組み、日本語、漢字仮名混じり文を前提

@流し……右から左に、モノにぶつかったら、右下に落ち、また右から左に流れていく本文の形です。
Aタタミ(囲み)……記事を、2段、3段、4段…と等分して割り、結果、矩形にします。囲みは、タタミを罫で囲んだ形ですから、タタミのバージョンと考えられます。。
B流しタタミ……流しの途中で、モノにぶつかった記事が右下に落ちたとき、落ちた記事を割る(=タタム)形です。
C横組み……字詰めを自在に変更しながら、横組みを縦組み記事の中に配置します。

ニュース面は、この4種類の「形」があり、これらを紙面の各所に配置してつくります。

フィーチャー面(読み物面)やオピニオン面、情報面は、「流し」をほとんど使いません。これらの面は、矩形、L型のモジュールとする場合が多いのです。このことは、「流し」記事が、報道やニュースに適している、と想定されていることを意味しています。

本文記事は、このほかに、行間を縮小したり、写真を食い込ませたり(回り込ませたり)して、その「形」を変えることもありますが、レイアウトの技法としては、流し、タタミ(囲み)、流しタタミのうちに包含されます。

長さ
、見出しについて
@読ませるための「3段階」
A読解力と造形力
B内容(Verbal)と形(Visual)
C見出しの形。字体、字形、書体、フォント、並べ方……
D8本10本・千鳥見出しと 余白……
見出しは、本文を読ませるためのパイロット(水先案内)です。見出し→前文→本文の「3段階」を踏んで、読者が記事を理解することを容易にするための装置です。

本文がまずあり、それを読解し、要約し、言葉を紡いで「見出し」を生み出し、生み出した見出しの形を作りあげる。

これら一連の作業は、
@Verbalな側面。バーバル。言語の読解と要約、語彙選択(発見・創造)という表現の領域。
AVisualな側面。ビジュアル。生み出した見出しをインパクトのある形にする表現の領域。
――の2つの領域にわたる「表現」の仕事です。端的に言えば、内容(コンテンツ)と形(ヴィジュアル)にわたる仕事です。言語力と造形力が求められます。
見出しの形・基本の基
チドリ見出しについて
「チドリ」とは、主見出しと袖見出しの並びが、「斜」を描いた状態を指す、新聞制作現場「門外不出」の伝統的な「技」です。

「千鳥足」「浜千鳥」「千鳥格子」の「千鳥」から由来していることは、ほとんどまちがいないことでしょう。「千鳥」という鳥は、両足を並べて立つことが少なく、常に、「一歩を踏み出した」格好で立っています。敵から、身を守る姿勢であり、攻撃の姿勢でもあります。いつでも、攻守どちらへも転じられる姿勢なのです。片方の足が、もう一方の足と並んでいない状態です。

柔術、合気道など、日本の古武道の基本姿勢にも、この「千鳥」という姿勢があります。「千鳥足」は、酔っ払いの足どりですが、これも、乱れた足並みながら、両足が並ぶことのない姿勢です。

いつだれが、そう名付けたのか不明ですが、新聞整理、新聞制作の現場で、見出しの並びの形が「千鳥」の姿勢に似ていることから、この形を「千鳥」「チドリ」と呼んだのです。

見出しの並びにおける「チドリ」は、新聞レイアウトの「命」として、見出しのみならず、記事の配列、罫、写真の配置などへと応用されていきます。新聞デザインの「命」であり、「アイデンティティー」と言って過言でない「技」であり「思想」でもあります。

近年、新聞レイアウトのデザイン化が進み、「チドリ」は消えかかろうとしているかに見えますが、そうなった時には、新聞デザインのアイデンティティーが失われる、という見方があります。(アートディレクターの東盛太郎さんは、新聞デザインの根源を支える「チドリ見出し」が、本阿弥光悦が俵屋宗達の絵に書いた「散らし書き」の構図にまで遡(さかのぼ)る、という「新聞デザインのアイデンティティー論」を展開しています。

紀貫之にはじまる「仮名」は、書の世界に「女手」の隆盛を生み、数々の「かな書」の極致が生まれました。その極致の一つに「寸松庵色紙」があり、現在、国宝になっていますが、これが「散らし書き」で書かれているのです。このほかにも、「散らし書き」はいくらでもありますし、女性歌人が詠んだ歌は、ことごとくが「散らし書き」でありました。

夕月夜小倉の山に鳴く鹿の声の内にや秋は来るらむ
                                紀貫之
という和歌を、紀貫之は、

ゆふつくよ
をくらの山になくしかの
  こゑのうちにや
  あきはくるらむ
       紀貫之

と「改行」を加え、「平仮名」でしたためました。そして、3行目を「字下げ」して書いたのです。この「散らし書き」は、多くの歌人によって試みられ、やがて、「俵屋宗達。尾形光琳」へも連なっていきました。

「散らし書き」は、「かな書」の常道として、現在でも書道の世界で盛んに行われていますし、平安の時代から、連綿として受け継がれてきた「日本文化の結晶」とさえ言えるのです。その「散らし書き」が、新聞見出しの「チドリ」として、いつの日か、使われるようになったのは、極めて自然の成り行きでした。

「チドリ」については、昭和6年発行の、東京朝日新聞整理部編の「新聞の読み方」だったかという冊子に、「新聞の見出しは千鳥見出しと言う。これは4行が基本である」と書かれているらしい、と東さんが教えてくれました。

「チドリ」には、おおげさに言えば、新聞デザインの過去・現在・未来がかかっており、そのことは、「日本の伝統文化」の浮沈とも関係しているかもしれない、と言えるほどに「日本文化のアイデンティティー」の問題でもあるわけなのです。
7、写真の扱いについての基本の基
@ 編集権
  ○ トリミングでなにをする?
  ○ トリミングは、著作権と編集権のたたかいだ
A 著作権
  ○ 「切り抜き、乗せ」厳禁の一般紙
  ○ 写真は添えものではない
B ステロタイプな感覚、刷り込まれた感性
に注意!
写真の扱いは、これまで「不当」と言えるほどに、粗末にされ、冷遇されてきました。今でも、大新聞社の中で、写真のことを「添え物」と呼んでいるところさえあります。文字原稿に「添えるもの」として、従属的な位置づけが行われ、「差別」されてきた歴史があります。

近年、ようやく、写真「表現」「報道」の主体性を重んじる風潮が生まれたのは、一に、写真のもつジャーナリズム性の再評価や著作権思想の浸透、二に、紙面のビジュアル化の進展といった、二つの流れが背景にあります。「添え物」として軽視される状況ではなくなったのですが、過去の慣習や経験が、一挙になくなるわけもなく、現在でも、悪習はいたるところで続けられています。

レイアウトの角度から、写真を考えていく時にも、この点を視野に入れる必要があります。その典型的な例が、トリミングという作業シーンに現われます。写真のトリミングは、写真の主体性を、編集という名で侵犯する、という本質をもっているのです。ビビッドには、「著作権と編集権の対立」として、トリミングという作業は問題化することがあるのです。★

そもそも、トリミングは、どのような目的で行われるのでしょうか。それは、「イメージの集中」という編集方針、紙面制作方針に拠っています。文字原稿に即して写真を配置し、文字原稿の内容に沿って写真をトリミングし、そうすることによって、記事全体のインパクトやわかりやすさを生み出す、という編集上、紙面制作上の要請からです。この作業の中で、トリミングは行われ、記事全体の「イメージの集中」を補足するようになっています。もちろん、このことは、新聞社内で明記された了解、あるいは暗黙の了解となっていますし、写真記者(カメラマン)と編集・整理記者の間の分業の中で認められてきました。

「写真の扱い」のルールとして、@切り抜きの禁止、A写真の上に他の写真を乗せることの禁止――などを実行している新聞があります。これらは、写真の主体性、著作物性、作品性を尊重し、写真のジャーナリズム性、報道性などを配慮した結果です。

「1枚の戦場の写真」が、文字原稿の何千、何万行に匹敵する「情報」を伝える、というようなことがあります。「行数」に換算できない、文字原稿とは異質の、ヴィジュアル・コミュニケーションとしての写真への評価は、この程度の扱いルールに止まっていいわけがありません。写真は、フォトジャーナリズムとしての独自な領域を確立していますから、無闇な加工は控えるべきであるという考え方が、「新聞写真」の領域にも及んできました。

しばしば論じられる例があります。
オウム真理教(現アレフ)が、マスコミへの記者会見を行ったときの「ニュース写真」のケースです。複数の教団幹部がこざっぱりした教団服姿で、微笑をたたえて会見に臨みました。何枚も撮られた「絵」は、当然ながら微笑をたたえたオウム教団の姿でした。新聞編集の現場では、「あんな残虐な事件を起した集団の笑っている顔は載せない」というステロタイプのルールがあるのです。そのため、「オウムの笑顔の写真」は新聞には掲載されませんでした。

「あんな残虐な事件を起した集団の笑顔」だからこそ、無気味なリアリティがある。「外見的なイメージと、その人の内部で起こっていることのギャップが核心にある」ような事件では、「笑顔の写真」のほうがリアリティがあるのではないか、という意見が新聞社外部のフリーの写真家から出されています。「笑顔の写真」は、結局、雑誌には掲載され、新聞には掲載されなかった、として新聞編集側の課題になっています。

写真の扱いも、見出し作り、記事の書き方などと同じように、紋切り型(ステロタイプ)、ワンパタンの発想への再考が求められているのです。
8、オーソドクスなレイアウトから最新傾向・発展形(ポスター、ちらし)まで
@ ニュース面、フィーチャー面、オピニオン面、情報面……
Aニュース面レイアウトのいくつかの方法
  ○押さえて流す(流したたむ)
  ○紙面分割パタンに当てはめる
  ○グリッド・システム
Bオピニオン面、情報面レイアウト
Cちらし、ポスターなどへの展開
@一般新聞の「面立て」を見ると、ニュース面と、ニュース面以外の面に分かれています。ニュース面は、第1面の総合面をはじめ、国際面、経済面、社会面などでのことです。それ以外の面は、フィーチャー面(読み物面)といわれますが、特集面全般を指す場合が多く、この中でも、内容が専門化して、オピニオン面、情報面などの分類も行われるようになりました。

ニュース面は、記事の変動が多く、緊急で重大なニュースが飛び込んでくると、「差し替え」が発生し、レイアウトの変更が行われます。「差し替え」は、版帯(時間帯)によっては、「部分差し替え」で済ませますが、超重大ニュースの場合には、「全面差し替え」という大掛かりなレイアウト変更を、しかも全ページに及び行うこともあります。

「禁じ手」が強く意識されるのは、ニュース面においてである、ということができます。フィーチャー面では、「追い込み」で紙面が作成される場合が多く、あるいは、定型のレイアウトである場合が多く、降版・印刷日当日の大幅なレイアウト変更は行わないようになっています。
ニュース面レイアウトのいくつかの方法
@オーソドックスな紙面をつくるレイアウト方法の典型として、「(左を)たたんで押さえ、(右を)流す」という典型があります。この場合、右上のトップ記事との関係に注意することが先決です。最重要のトップが、左にたたんで押さえたタタミに圧迫され、貧弱になってしまうことを避けながら、繰り返します。

右を流す場合、「流しタタミ」で「押さえる」(=記事を止める)ことを併用します。左は、「たたんで押さえる」ことをしないで、罫を立て、「流す」こともあります。いずれも、紙面を、右部分、左部分に大別し、見出しを3段にしたり、写真を拡大・縮小したりしつつ調整を図りながら、次第に、紙面左下まで、ページの隅々をレイアウトしていく方法です。

A2分割、3分割、4分割、変形2分割、変形3分割、変形4分割……など、定型の分割パタンを念頭に置きながら、記事内容と照らし合わせて、いずれかのパタンに当てはめていく、という方法です。★

Bグリッド・システムは、原則的には字詰めの変更を行わない新聞レイアウトでは、通常、使いませんが、特集面など、臨時的な紙面レイアウトや、はじめて紙面を設計・作成する場合などに便利です。雑誌レイアウト、チラシ、ポスターなどで活用されています。

「割り付け用紙」が新聞レイアウトの場合用意されている場合がほとんどでしょうが、その「割り付け用紙」の単位モジュールを主として「正方形」にしたものと考えるとわかりやすいかもしれません。「行と行間を単位」とした新聞の割付用紙を、「正方形」で区分して、本文、見出し、写真、罫などを、「グリッド」に沿ったレイアウトにします。「法則性」のある、すっきりした紙面をつくる場合に好都合です。

ニュース面以外の、フィーチャー面、オピニオン面、情報面には、このグリッド・システムによるレイアウトが適しています。「デザイン技法」の新聞レイアウトへの摂取という側面が、このグリッド・システムには強くはたらいています。
オピニオン面、情報面のレイアウト
ちらし、ポスターなどへの展開
9、新聞レイアウトの禁じ手について
@同じ大きさ・形を避ける。(繰り返しを避ける。)
A見出しの横並び
B門構え=罫の横並び、
C腹きり。→毎日新聞の試み
D尻餅=2段以上の写真や、2段以上の見出しは、最下段に置かないという禁則。1段ものなら「まあ、いいか」と許容する向きもある。理由はない。
E両落ち・両流れ・両降り。
F泣き別れ。
G流しとまたぎの混在。
H煙突(見出し、写真)、
I飛び越し。
Jそっぽ。
K 割り込み。

「FGK以外は、禁じ手としなくてもいいのではないか」というのが、日本新聞協会整理研究部会の見解です。
@ABは、「重複を避ける」というルールの一部に過ぎない。
冒頭の「セオリーはどこからきたか?」でふれたように、一般新聞レイアウトのセオリーは、@ブランケット版、A日刊発行、B活字・活版印刷、Cモノクロ時代……の環境下に生まれ、育まれてきました。ですから、今日のコンピュータ組み版、デジタル・フォント化、カラー化の時代に、そのまま踏襲する意味は薄れています。

タブロイド版で、しかも、月刊、月2回刊、旬刊か、たまに週刊といった発行サイクルの新聞や広報紙が、ブランケット版・日刊のレイアウトセオリーを、「法律」のように遵守する必要はまったくないのですが、中には捨てがたいセオリーもあるのです。ブランケット版一般新聞で「禁じ手」とされてきたレイアウトーセオリーを知っておく意義はこの点にあります。今日的なレイアウトを作りたい場合に、「禁じ手」は、批判的に学習することを求められています。

禁じ手を見てみましょう。
@
同じ大きさ・形を避ける。(繰り返しを避ける。)
A見出しの横並びは避ける。
B門構えは避ける。門構えとは、罫が横並びになることです。
C腹きりは避ける。
 ★毎日新聞の試み
D尻餅は避ける。2段以上の写真や、2段以上の見出しは、最下段に置かないという禁じ手です。1段ものなら「まあ、いいか」と許容する向きもある。理由はない。
E両落ち・両流れ・両降りは避ける。
F泣き別れは避ける。
G流しとまたぎの混在は避ける。
H煙突(見出し、写真)は避ける。
I飛び越しは避ける。
Jそっぽは避ける。人物写真を複数点レイアウトする場合、右スペースに配置した写真の「絵柄」が右向きになり、左スペースに配置した写真の「絵柄」が左向きになり、互いに「そっぱ」を向いている状態になることを指し、避けたほうがよいとされている。
K 割り込みは避ける。ある記事の中に、関連記事でもない、まったく異なる記事が、割り込んだ形。
……などが、禁じ手です。
10、基本レイアウト・実演――タブロイド版の「「押さえて・流す」レイアウト